「松」との幸福な日々

二ヶ月ぶりに「私とコンピュータ」シリーズの続き。( ´ー`)
小規模な会社としては、身分不相応ともいえる”ワードプロセッサ”システムを手に入れたわけだが、新しもの好きなM社長とて、もちろん好奇心だけで高価な機材の購入を決めたわけではない。
当時勤務していた「三和無線」は、個人向け無線機器販売から発展して家電量販店となった「ニノミヤ無線」などとは異なり、本格的な業務用無線機器や設備の施工と保守業務を専門とするかなり高度でニッチな業種。
そして、三和無線の元請会社 & メーカーである”日本無線(JRC)”が官公庁主体取引であり、クライアントへの提出資料として何かと多数の書類が必要なのであった。
お役所指定の書式がほとんどなので、ワープロを導入するまでは、主にJRCの”和文タイピスト”が作成してくれた書式を複写機でコピーして手書きでデータを記入していた。
JRCとの関係は非常に良好だったが、何しろ役所相手の取引なので書式の数も半端ではない。時代の流れとして、JRC自体が、目玉の飛び出るほどの本当に高価なワードプロセッサ装置を順次導入し始め、タイピストさんたちも、気の毒な事に失職の危機に怯える日々だったが、実際にはワープロオペレーターとして延命出来たようだ。
なので徐々に「そろそろ書式の自社制作くらいしてくれよ」との要望(圧力)が高まって来ていた時期であった。
倹約家のM社長にしては大胆な決断で高価な文書作成機を導入した結果は、しかし大成功でありました。
その理由はわたくしが在籍していたから。・・・ホンマやで。( ´ー`)
他の誰も触りたがらないので、この高級システムが事実上の自分専用機。嬉しかったなぁ。
辞書を読みに行く時や文書読み込みや保存時のフロッピーディスクのカチカチ音さえも快感。
それまでに体験したのは、”X1″での、テープベースのおもちゃのようなワープロもどきのソフト。入力も文章の編集もすべてインラインで、しかも学習機能のない単漢字変換というだけでも、とても実用にならないものだったが、それでも喜んで使っていた時期があった。
なので「松86」によって初めて、文書のカーソル位置で高精度の漢字変換が出来ただけでも感動ものであった。
ようやく手に入れた本格的なワードプロセッサはとにかく面白く、毎日が刺激的な日々となり、寝食忘れるほどの熱意で書類を大量生産し、一ヶ月もしないうちに手書き文書の大半を駆逐してしまった。会社としても、訂正や新しい書式が必要になるたびに元請会社にお願いする必要もなくなり、事務処理が格段にスピーディーになった。
「松86」の機能と処理能力は期待通り、いや期待以上だった。
すごく多機能なのに、洗練されたシンプルな操作性と全くストレスのない高速処理がかけがえのない宝物となった。機能的にも元請会社の10倍近く高価な装置と同等以上だった。
負けていたのは、モニタに表示される文字が24ドット明朝体だった事と縦型画面。あれは本当に羨ましかった・・・
そして、それまで意識した事はなかったのだが、初めて”ソフトの処理能力の重要性”というものを実感させてくれたのが、しばらくして現れた、かのジャストシステム製「一太郎 Ver.2」のおかげである。
ソフトバンクの強力なプッシュによる鳴り物入りの登場だったが、ちょっと触ってみただけで、そのスローモーな動きに驚き落胆し、二度と使う気がしなくなった。ESCキーによるメニュー表示も気に入らなかった。
どんなに沢山の広告や提灯持ち記事が出ようと、「あんなのはまがい物」と蔑んでいた。
新しもの好きのM社長は”一太郎”に関心を示していたが、却下し続けた・・・ってエラそうに。(;`ー´)
その後PCも”PC-9801VM”となり、待望の「新松」も当然のごとく発売直後に購入。※もちろん会社でね。

「松86」の、というよりPC98環境で最大の不満点であった”黒地背景に白文字”を、カスタマイズ機能によって”白地背景に黒文字”というMACイメージの画面にしたりしてみては自己満足していた。
それにしても、この頃の管理工学研究所のコマーシャルに関するセンスというものは当時は理解不能であった。
一体、センスがあるのかないのか、両極端のイメージで、それはどう見てもプラスに働いているとは思えなかった。
“初心者にもやさしい高性能エディタ”・・・って。いや、そもそも初心者はエディタなんて理解不能なんですが。
ともあれ本格的パソコン生活スタートは完全に「松ひとすじ」、「管理工学研究所」の名も心に刻みつけられた。
そして、使い込めば使い込むほどに、「松」の文書を量産すればするほどに「しょせんワープロだけでは本物の業務改善にはならない」という厳然たる事実を、あらためてひしひしと感じる毎日となった。

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