オーディオマニアを訪ねて

謎のオーディオマニアさん初訪問

友人知人の中にオーディオマニア的な人が何人かいるが、一度くらいは「本格的オーディオマニアの生活」というものを体験してみたい思いを密かに抱えていた。ようやく実現したのでレポートしよう。

ここで終日好きなレコードをかけているらしい・・・

1年ほど前、知人の知り合いの中に筋金入りのオーディオマニアがいると分かり、何度か言葉を交わす機会があった後に訪問を希望して快諾されたのだった。シルエットの人物がその主でNさんとしておこう。
一口にオーディオマニアといってもそのあり方は人それぞれ。
Nさんは最新機器を追い求めるのではなく、気に入ったものを長く愛用するタイプの方である。

コレクションの大半はジャズがメインのアナログLPレコードだった。
レコードプレーヤーはひと目でそれと分かった、オールドマニア垂涎(らしい)の”ガラード401“ターンテーブルと”SME3012-R“トーンアームに、品番聞いたけど忘れた”オルトフォン”のカートリッジ。
いずれも30年間以上もノートラブルで最小限のメンテで済んでいるとのこと。
動作不安定の中古ターンテーブルに悩まされた身としては素直にうらやましい。😅
フォノイコライザーアンプとプリアンプは知る人ぞ知るらしいLeben製の”RS-100“。
とはいっても使用されている真空管についてあれこれとうんちくを説明されたがチンプンカンプンでまったく覚えてないし、もちろん自分が3万円の真空管アンプユーザーなんて言ってませんよ。😅
同じく真空管パワーアンプのブランドと名前も説明はあったが忘れた・・・
でも一言だけ「自分で造った」と言ってたので、首をかしげたのだが気にしていなかった。

スピーカーはといえば、これまたマニア垂涎らしい”TANNOY Westminster“。
1個で当時の国産自動車一台分の仰天価格だとは後で知ったのだが・・・
愛好家の端くれとしては、このような場所でいちいちお値段を気にするのは無粋の極みと心得ているので一切聞いていない。
「それで、肝心の音はどうなのだと?」いう疑問は出るだろうが、予想通りの素晴らしいサウンドでしたよ。
「そんな感覚的情緒的なもんでは感想になっとらん!!」と叱責されても、マニアの方々やヒョーロンカ先生みたいな表現なんか出来ないと開き直るしかない。
とりあえずは「目をつぶると間近で演奏されているような臨場感があった」くらいは書いとこうか。😅
生演奏に接する機会も良くあるN氏が長年に渡って構築整備されて来た機器によるサウンドに、シロートが間近で聞かせてもらって不満などあるわけないからね。

本物のプロだった・・・

話を聞くうちに、N氏はなんとLeben社の技術者だったと分かり、すべてを納得出来た。

知人からはこれまでに数百台の真空管アンプを造って来ている日本人唯一の人物であるとは聞かされていたが、宣伝もしてないのになんでそんなに売れるのかと不審ではあったがようやくその謎がとけて腑に落ちた。

N氏はたしかに”レーベン”と発音していた。創業者とのツーショット写真も額縁に収まっていた。
すると、詳しいのは当たり前で実はすごい人だったのだということになるな。😅

オーディオマニアが苦手だった理由

オーディオマニアは音楽を聴いていない?

オーディオマニアに好感を持てない理由のひとつが「落ち着いて音楽を聴かせてくれない」というものである。
それほど経験はないが、マニアとまで行かずともオーディオ愛好者である人の家を訪れて部屋に案内されるとそうだった。例外はない。
今回のN氏は、入室直後は小編成ジャズのLPレコード片面を全部かけてくれたのでマシな部類である。
しかし、片面終わって裏返すかと思いきや、頼んでもいないのにそそくさと別のレコードを取り出して数曲かけては取り替えるという儀式が延々と繰り返されるのだった・・・
わずか20分あるかないかのLPレコードだというのに何でじっくり聴かせてくれないのだろうかとストレスが溜まって来る。
とはいえもちろん主に悪意などあろうはずがなく、合間にはどんなジャンルの音楽を好んでいるかを聞いてくれるのだが「今かかってるようなのが好き」と本音で答えているにもかかわらず、とっかえひっかえのエンドレスは変わらない。
5回目くらいにCDを再生してくれたので少し安心しかけたが、やはり1曲で終わってアナログレコードに戻ってしまった。😅

おもてなしのこころ

自分にとって”マニア”の定義は、その分野にかかわらず目的と手段が逆転している人を指す。
一応断っておくが、N氏が特定ジャンルでの本格的な音楽愛好家であることは知っていたし確認も出来た。
何しろ外出時以外は毎日ほぼ一日中好きなレコードをかけ続けているとのことだし、まぎれもなく”音”だけを聴いているのではない音楽愛好家である。
思い返してみればそれまで関わった人たちも大概はそうだった。
より良い音で音楽を楽しみたいという自然な欲求により、例え生活をおびやかすほどの金がかかってもオーディオ機器や究極的には住環境改善にまでもカネを惜しまないだけの人たち。
その結果各々の経済力範囲内で楽しんでいるのだから、他人がどうこう口をはさむ余地はまったない。
しかし、ほぼ例外なく音楽好きであるはずの人たちが、なぜ客人にはじっくりと聴かせようとしないのかが疑問だった。
客が来ると音楽を聴かなくなるし聴かせようともしない。それはなぜか?
そして、今回の駄文を書いていてふと気づいた。
「すごく良い音が聴けるお宅がある」との噂から、N氏宅訪問を伝えて快諾されたのだ。
“音”を聞くために訪れた客に対して、所有するあらゆる”音”を聴かせようとするのは無意識のおもてなしではないか。
シェフがコース料理を出すように、”音”を次から次へと繰り出し続ける行為も同じなのだろう。
そもそも、音造りのプロとしてオーディオ製品を世に送り出し続け、ジャズ音楽に造詣が深くプロミュージシャンとの交流もあるN氏を「マニア」と表現するのは極めて失礼な行為なのかもしれない。
納得できる水準まで達した後は、それらの機器を大切に長期間愛用されていることも敬服に値する。

まとめ

そんなこんなで、帰り道で思ったことは「やっぱりマニアは苦手だわ・・・」😅
3時間弱の滞在でコミュニケーションと呼べる場面はほぼなかったのも事実。
発言の95%以上がN氏によるもので、自分は時折あいづちを返す程度。善意からと分かってはいる。
しかし相手の反応など意に介さず際限なく”音”について一晩中でも語り続ける様子だった。
それでもあいさつの冒頭で「入門者レベルだがクラシック音楽も好み」との一言をちゃんと覚えていて、所有するおそらく数枚のレコードの中の一曲をかけてくれたりもした。そしてその最中でも一方通行のおしゃべりは延々と続き、レコードのカッティングマシン機器の違いによる音質の差異についてまでも熱く語られるに及んで限界に達し、丁重にお礼をのべて退散した。
特筆すべきは、なかば強引に説明を断ち切りやんわりと席を立とうとしているその瞬間でさえも別のレコードを棚から取り出してターンテーブルに乗せて再生してくれたことである。
本当に恐れ入りました。最後の最後までおもてなしを続けてくれたのだ。
オーディオマニアのかがみ のような人だった、と書いておしまいにしよう。

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