ひょんな事から、施設最大の45m電波望遠鏡(パラボラアンテナ)を制御するプログラムの起動と運転操作に従事する日々となったのであるが、パネル工事で奮闘するガテン系(もう死語か)仲間たちからは同情されていた。
「そんな退屈な仕事をよく我慢してやってられるもんだな」というわけである。
「いや、毎日が楽しくて仕方がないのだが」と返答しても、やせ我慢にしか聞こえないらしい・・・( ´ー`)
30年前と同じ構図で撮りたかったのだが、現在は撮影禁止区域となっているため断念。
毎日通った思い出深い場所。今はもう内部に入ることは出来ない。年に一回くらいは特別公開もされているようで、何と今年は8月25日だったらしい・・・
「よし、それなら来年こそは!!」というほどの思い入れもないので、再訪問する事はないが。( ´ー`)
さて、電波望遠鏡(の制御室)にも教授連の他に当然ながら多数の技術者達が出入りしていた。その中の一人に、背の高くてスタイルの良いカッコイイ青年A氏がいた。名前を忘れてしまっているので、ここではA氏とさせていただく。
一人だけジーンズファッション。ふちなしメガネをかけてモデルのように背筋まっすぐシャキシャキと歩く人だった。
そして、いつも首にヘッドポンをぶら下げ、シャツの胸ポケットには”ウォークマン2”。( ´ー`)
見るからに場違いなA氏は、三菱電機から派遣されて来ていたシステムエンジニアであった。
A氏はとても気さくで親切な人で、合間を見つけてはコンピューター(というよりプログラム)について解説してくれた。
とはいっても機械語で書かれたプログラムそのものを理解できるはずもないので、プログラムされたソフトウェアで動作するコンピューターの仕組みについての概要などを教わっていたのである。毎朝”アイピーエル(IPL)”操作をしているのを見て、いつもそれだけじゃあつまらんだろうという親切心だったと思う。
まったく未知の領域の知識ばかりであったが、実に新鮮で面白く、一度教わった事は忘れないほどの(当時は)吸収力もあり、どんどんコンピューターの世界に引き込まれていった。
電波望遠鏡プロジェクトが佳境に入って、さすがにその機会もほとんどなくなっていたが、ある時久々に雑談をしてくれたA氏に「これが終わったら今の仕事を辞めてプログラマーを目指そうと思います」と相談してみた。
A氏の答えは、予想に反して「悪いことは言わないからそれは止めなさい」であった。
「最先端のカッコイイ仕事に見えるのは外見だけ。実態は地味な単純作業の繰り返しに過ぎず、完全に職人の世界なのだよ。技術が進歩してもおそらくその事は変わらない。少なくともキミには合ってないよ。」
ガァーン!!(;゚Д゚)
ショックでその夜は眠れなかった、なんてウソなのだが、翌日からそれまでと違った眼でA氏の仕事ぶりを観察するようになり、何となく意味が分かったような気になっていった。
いきなりシステムエンジニアはムリだろうから、プログラマーから入ってステップアップと漠然と考えていたのだが、システムエンジニアは最初からシステムエンジニアなのだないう事も・・・
“夢破れたり”である。ま、そんなにカンタンに破れる程度の夢だったというのも確か。
※本文と関係無いですが、長旅を疲れることもなく快適に過ごさせてくれた2001年製の愛車。この頃からクルマの世界もコンピューターが大きな比重を占めるようになって来たのです。と、こじつけておこうか。
さて。プロジェクトも最後に近づいていたある時期から、原因不明のトラブルが発生し、一同頭を抱えていた。
なぜか、午前0時になると電波望遠鏡の回転動作にブレーキがかかって一瞬停止の後再始動という事態となっていた。
ちょっと想像しにくいとは思うが、何しろ巨大な円盤を載せた装置が非常に低速とはいえ一定の速度で回転し続けているため、突然ブレーキがかかると設備全体が軽い地震にあったくらいの揺れに見舞われるのである。
再始動時も同じく想定外の負荷がかかるため、機械的にも悪影響は避けられない。
教授連や機器制御技術者それにA氏も連日寝食も忘れて連日原因究明に取り組んでいたが、どうしても分からない。
もちろん自分も駆り出されてはいたが、アシスタントゆえ運転操作の他は計器類の異常がないか確認する程度で気楽なものであった。
それでも自分で気になっていた事があり、5日目に入った日の昼食時にA氏に思い切って話してみた。
「システムの時刻が実際の時刻よりも0.5秒ほど遅れてるようなんですけど・・・」
当時は安物であったがカシオのデジタル時計がお気に入りで、寝る時と入浴時以外はずって手首に巻いていた。
きちょうめんな性格のため、年間誤差1秒以内の仕様にもかかわらず、毎朝7時のニュースに合わせて時刻合わせをしていたので正確さには少し自信があったのである。
※本文と関係無いですが。野辺山から軽井沢に向かう途中でみかけた、”セリカⅢ(1982頃!!)”
さすがに疲労でやつれかけていたA氏が見る見るうちに生気を取り戻し「それだ!!きっとそれに違いない!!」
制御室にかけつけて、制御システムの時刻を確認すると確かに0.5秒遅れていた。メカニズム部を制御する時計と、スケジュールプログラムを制御するシステムの時計が別々に動作していたため起こった現象なのであった。
メカニズム制御用の時計は完璧に正確に合っていたが、コンピューター制御側に誤差が生じていたのである。
そして、その夜からは怪現象が起こらなくなり、一同安眠できるようになったのである。
「ありがとう、ほんとうに助かった」とA氏から感謝され、少しは恩返しが出来たかと嬉しかった。
ま、若いころの数少ない自慢話さ。( ´ー`)
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