“PC-8001″のカタログを眼にしてから、”X1″を手にするまで約半年間は準備に費やした。
何の準備かというと、資金はいうまでもなく、まず第一に”キーボード”である。
当時の並の人間にとって、コンピュータとは”テレビとキーボード”がセットになったものであり、キーボードを自在に使いこなせないと何も出来ないのだという事くらいは認識してはいた。
とはいえ、キーボードにずらりと並んだ大小さまざまな形のキーを見ただけで怖気づいてしまうのであった。
ショップで展示品を前にしても、いったい何をどうすれば良いのかまるで分からず、触ってはみたいがちょっとキーを押しては見ても何事も起こらず、呆然と立ち尽くすのみ。当時は周囲にアドバイスをもらえるような人物もいなかった。
もちろん、客の中には、猛烈なスピードでキーを叩いては、しょーもないゲーム画面を動かして得意になっている者もいたが、その種の人達(大抵は学生風)にアドバイスを求める気にはなれなかったし。( ´ー`)
こういう時は本に限る、というわけで大阪有数の大型書店「紀伊国屋」に通っては参考書を読み漁った。
当時の一般庶民としては、未知のものを調べるには大型書店が最大の情報源なのであった。
いや、それなら図書館ではないかというのは当然の発想なのだが、とにかく蔵書が古いため日進月歩のコンピュータのような最新のツールについてはまったくの無力、すなわち役に立たなかったのであった。
さて。紀伊國屋書店に何度も通い、いかにも学者が書いたようないたずらに難解な文章で埋め尽くされた参考書をたくさん流し読みするうちに、おぽろげに分かった事は、「とりあえずBASICを学べ」というものであった。
そして、何とか理解できそうな内容の参考書を買ったら、付録として巻末に実物大のキーボードが付いていた。
“実物大”すなわち紙に印刷されたキーボードであったが、これはありがたい付録であった。
BASICであれ何であれ、コンピュータに取り組むにはとにかくブラインドタッチ習得が必須なのである。
「正しいタイピングの仕方」という解説とともに紙のキーボードを四六時中持ち歩き、ヒマさえあれば仮想タイピングの練習をサルのように熱心に続けた。もちろんお題はBASICの簡単なサンプルプログラム。
教材としたプログラム自体は画面に円や四角形を描いたり、ちょっとした繰り返し処理を加えるという程度のまったく取るに足りないものばかりであったが、いろいろと取り組んでいるうちに「自分の求めているものはBASICでは実現出来ないのだ」という重要な事実に気がつくことも出来た。
しかし、最大の目的はブラインドタッチであり、BASICではないのだと割り切り、熱心に練習していると、1ヶ月もしないうちにすらすらと(紙の上では)タイピングが出来るようになっていた。
コンピュータを習得する上でひとつの、というより最大の壁を超えられたような高揚感がふつふつと湧いていた。
コメント